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新しい保育士のあり方に関する研修会資料

新しい保育士のあり方に関する研修会資料

3.新しい保育士のあり方

淑徳大学社会学部教授 柏女 霊峰


はじめに
 
 平成13年11月30日、第153回臨時国会において議員提案された児童福祉法の一部を改正する法律が、法律第135号として公布されました。このなかで、長年の懸案となっていた 保育士資格の法定化が図られました。施行は公布後2年以内とされ、平成15年11月が予定されています。
 ここでは、この保育士資格の法定化を契機として、新しい時代の保育士のあり方について考えてみたいと思います。特に、保育士の業務として新たに規定されることとなった「児童の保護者に対する保育に関する指導」(以下、本稿では「保育指導」といいます。)や保育士の倫理をキーワードとして取り上げたいと思います。なお、本来、保育士の業務はそれが行われる場所を問わないものですが、ここでは、保育所で子どもの保育に当たる保育士を中心に考えていきたいと思います。
1. 保育士の法定化とその背景
  (1) 保育士資格の法定化
     保育士資格の法定化とは、これまで児童福祉施設で働く任用資格(児童福祉法施行令第13条)として規定されていた保育士の資格が、児童福祉法上に名称独占資格として規定(児童福祉法第18条の4)されたことをいいます。あわせて守秘義務や信用失墜行為の禁止の規定も整備されるとともに、保育士の登録や保育士試験などに関する規定も整備されました。
 児童福祉法第18条の4によると、保育士とは、「第18条の18第1項の登録を受け、保育士の名称を用いて、専門的知識及び技術をもって、児童の保育及び児童の保護者に対する保育に関する指導を行うことを業とする者をいう」こととされました。
 保育士として業務を行うためには都道府県に登録を行うことが必要とされ、都道府県から保育士登録証が交付されて初めて保育士と名乗ることができることになります。保育士の登録を受けていない者は保育士(保母や保父も同様)と名乗ることができず、これに違反すると罰則がかかります。また、保育士には守秘義務(罰則あり)や信用失墜行為の禁止(違反者には登録の取消しや名称使用の制限など)といった対人援助専門職としての義務が課せられ、これで名実ともに専門職となり、他の専門職と同等の地位を獲得することができたといえるでしょう。
  (2) 法定化の背景
     この背景としては、認可外保育施設において保育士資格が詐称されたりしたことや、子育て支援の中核を担う専門職として保育士の重要性が高まっていたことなどを挙げることができるでしょう。介護福祉士をはじめとする社会福祉の専門職が既に法定化されているなかにあって、長い歴史を有する保育士の国家資格化がこれまでなされてこなかったことも、今回の法定化を促進する要素となりました。法定化を急いだために、単独の資格法を創るのではなく、児童福祉に関する総合立法である児童福祉法のなかで法定化が図られたこと、養成についてはこれまでの仕組みやカリキュラムを踏襲したことも、今回の法定化の特徴といえるでしょう。

2. 保育士の業務と保育指導の意味するもの
  (1)保育士の業務
   児童福祉法第18条の4にみるとおり、保育士の業務は、子どもの「保育」と「児童の保護者に対する保育に関する指導」すなわち「保育指導」の2つということになります。つまり、親・保護者と子どもに対する保育に関する援助を行う専門職が保育士ということになります。この規定ぶりは介護福祉士の規定ぶりとほぼ同様です。ちなみに、社会福祉士及び介護福祉士法は、介護福祉士の業務について、「・・・入浴、排せつ、食事その他の介護を行い、並びにその者及びその介護者に対して介護に関する指導を行うこと・・」と規定しています。
 ここにみるとおり、保育士はあくまで保育のプロであり、介護福祉士と同様、ケアワークを行う専門職ということができます。つまり、「保育」という行為が、子どもに対する保育と保護者に対する保育指導を行って初めて完結することを意味しています。
 したがって、保育指導とは、家庭や保育所における子どもの保育をより良くするための援助であり、保育の一環として保育指導という業務が行われることはあっても、それは、社会福祉士や臨床心理士の行うソーシャルワークやカウンセリングとは異なっていると考えられます。保育指導の業務が保育士に付加されたからといって、保育士がソーシャルワーカーの一翼を担うようになったと考えるのは早計でしょう。
 ところで、「保育指導」というのは、いったいどのような行為を指しているのでしょうか。また、それを行うための知識・技術の体系は、いったいどうなっているのでしょうか。保育指導とは新しい概念であり、その明確化は今後の検討に待たなければなりません。また、保育指導を含めた保育士業務の体系化についても、今後の大きな課題ということができるでしょう。
  (2)保育指導の意味と意義
    1. 保育指導の意味するもの
       保育指導については、現在、明確な定義がありませんが、とりあえず、「保育指導とは、子どもの保育の専門職である保育士が、保育に関する専門的知識・技術を背景としながら行う子どもの保育のあり方に関する相談・指導・助言である。」ということにしておきたいと思います。つまり、保健師の行う指導が保健指導であり、栄養士の行う指導が栄養指導と呼ばれるのと同様に考えたいと思います。
 ここで、指導とは「指し導く」と書き、専門家が上から教えるというニュアンスをもっていますが、実際はそうした性格のものではないことに留意することが必要です。「指導」とは法律用語であり、実際の場面では、ソーシャルワークやカウンセリングの基本原理に沿いつつ、その人の実情に共感しながら、あるいは見本を示しつつアドバイスや支持、承認、情報提供などを行うこととなります。これらを行うにあたっては、相手の精神状態などに気を配りながら、画一的な助言にならないように留意し、また、具体的で現実的なアドバイスを心がけることが求められます。
 したがって、「保育指導」という用語は現場で日常的に使用される用語としてはあまり適当ではありませんが、現在のところ、他の適当な用語が見当たらないので、便宜上、この用語を用いることとします。今後、現場において日常的に用いる適当な用語を検討することが必要と思われます。
    2. 保育指導の類型と意義
       このような保育指導には、大きく2つの側面があると考えられます。その第一は、保育所に日々通う子どもの保護者に対する保育指導です。つまり、保育をよりよく行うためには、保育所に通う子どもたちの保護者を視野に入れた援助を行うことが必要とされていることを示しています。保育所に通う子どもの保育をよりよいものにするためには、保育所保育指針にも書かれているとおり保護者との協力、パートナーシップが必要であり、保育指導とは、保護者とともに子どもを保育する姿勢から生まれてくるということができるでしょう。
 第二は、日頃、保育所に通っていない子どもとその保護者に対する保育指導があります。この場合は、たとえば体験保育などの機会をとらえて、保護者に対して子どもとの遊びに関する手本を見せたり、子どもの遊びの意味することや発達の特徴などについて解説したり、子ども同士が遊ぶ機会を提供して保護者が参加できるようにしたりすることなどが挙げられるでしょう。孤立した子育てに戸惑う保護者の声に耳を傾け、受容し、支持し、必要に応じてアドバイスなどを行うことも大切な業務となります。
 このような業務を行うためには、保育士には、固有の専門性である保育に関する知識・技術のほかに、一定程度、ソーシャルワークやカウンセリングの知識・技術を修得することが必要とされます。これを受け、保育所に勤務する保育士には、保育に関する相談・助言を行うための知識及び技能の修得、維持及び向上に努める義務も法定化されました。
 また、保育士養成に関しては、平成14年度入学生から新しい養成課程も導入されています。新保育士養成課程のポイントの一つは、家族援助論の創設や社会福祉援助技術(演習)教授内容の明確化などに示されるように、子どもを家族ごと支援していく姿勢を保育に取り込むことであると考えられます。
 さらに、改訂保育所保育指針も、保護者とのパートナーシップや子育て支援を力説しています。社会福祉基礎構造改革によって導入された苦情解決の仕組みも、保護者とともに保育を創り出していく契機ととらえられるでしょう。つまり、保育士の業務に保育指導が付加されたことにより、保育士は、子どもと保護者に対する福祉的援助を行う専門職として明確に規定されたことになるでしょう。
  (3)保育指導を組み込んだ保育
     それでは、保育指導を組み込んだ保育とはどのような保育をいうのでしょうか。ここに、一つの例を挙げて考えてみたいと思います。
    1. 事例
     
 保育所に通う4歳児A男の行動が最近おかしいという。聞けば、担当保育士へのしがみつきが頻繁にみられ、担当保育士が他児と関わりをもっているとその子に噛みついたりすることもあるという。担当保育士は、A男の変化について職員会議で話題にした。「家庭でなにかあったのかもしれない。明らかに私を独占したがっている。当面は、A男に目をかけてやりたい。」と。
報告を受けた保育所長が母から事情を聴いた。母は最近、夫と別れ、近くの祖父母宅に身を寄せたという。また、離婚をめぐるゴタゴタのなかで、この4月に保育所を卒園した兄が不登校気味になっているという。さらに、母はこれまでパートとして働いていたが、夫の収入がなくなったため生活に困窮していた。ヘルパーの資格をとって正規職員として働きたいとも考えているという。母は、離婚にまつわるショックやこれからの生活や兄の不登校に心労を重ね、A男の変化に気づきつつも手をかける余裕を失っている状況であった。
    2. 保育指導を組み込んだ保育
       この事例の場合、保育所において、担当保育士がA男をあたたかく抱きとめることは保育の基本であるといえるでしょう。しかし、それだけではA男の保育は完結しません。この事例の場合、A男が生活する基本的な場である家庭そのものや母の立ち直りを応援しないかぎり、A男の福祉は図れないと考えられます。
 家庭生活の再構築を図るためには、母の混乱した気持ちの受容と支持、経済的支援としての児童扶養手当の申請への支援、兄の不登校に対する支援、ヘルパー養成講習会等に関する情報提供と支援など母や兄を含めた家族全体に対する援助が欠かせないものとなります。祖父母の協力も必要とされるでしょう。そのためには、関係する専門機関や専門職、地域のボランティアなどとの効果的連携も欠かせません。すべてを保育所で支援することは、不可能であるからです。
 保育指導においては、保育所内で事例検討を実施するなどして職員全体で共通理解を図り、A男の行動の背景を理解した保育に努めるとともに、母の声に耳を傾け、母や兄、A男を含めた家族全体の立ち直りをすすめていきます。必要に応じて関係機関との連携を図り、また、母親にソーシャルワーク機関や各種サービスの情報提供やあっせんを行います。
 市町村や福祉事務所のソーシャルワーカーにつないだあとも、A男の保育を通じて母を支えていきます。つまり、保育指導とは、保育所におけるA男の保育のみに目を向け、それに専心するのではなく、A男を家族ごと理解してその福祉を保障する視点をもち、また、そのことによってA男の保育をよりよいものにするために保育士に必要とされる業務であるといえるでしょう。 
  (4)保育指導の活用
     次に、保育指導が展開される場面としてはどのような状況があるでしょうか。ここでは、保育指導の機能の面から、便宜上、5つの場面に整理しておきたいと思います。これらは、主として保育所が行う子育て支援活動の場面と考えてよいでしょう。
    1. 通常の保育場面
       まず、通常の保育場面におけるさまざまな形態での保護者との関わりを挙げておかねばならないと思います。特に、登園時、降園時の保護者との連絡は、保育所や家庭における子どもの保育をよりよいものとするために欠くことのできない業務ということができるでしょう。これらを通じた日頃からの保護者との関係づくりも重要になります。
 また、先に取り上げた事例のように、特別な配慮を必要とする子どもと保護者に対する支援も大切な業務となります。障害のある子ども、登園拒否、かん黙などの心理・行動上 の問題を有する子ども、被虐待が疑われる子ども並びにその保護者に対する支援がそれに当たります。子どもの育ちや子育てが社会状況の変容のなかで大きく変化し、このような問題にじっくりと向き合い、ともに歩む機能はますます重要になってきているといえるでしょう。
    2. 預り型の保育場面
       第二に、保育所における一時保育や延長保育、夜間保育など、通常の保育に付加された保育場面における対応が考えられます。一時保育には非定型的保育や緊急保育、私的理由による一時保育や体験保育などがありますが、特に、私的理由による一時保育、いわゆるリフレッシュのための保育については、子育ての負担感やストレス解消のためのサービスとして、その意義を十分に確認しておきたいものです。こうした場面で保護者の声に耳を傾けることは、保育指導の契機としても非常に重要といえるでしょう。
    3. 居場所提供型の保育場面
       第三に、体験保育、育児グループなど居場所提供型の保育場面における対応が挙げられます。こうした活動は、孤立した育児に戸惑う親子に居場所を提供し、親たちの相互援助を活性化し、いわば子育ての仲間づくりの活動として大きな意義をもつものといえます。
 保育指導の主要な提供場面であり、かつ、機能であるといえるでしょう。
    4. 行事型の保育場面
       保育所の場所を利用して、子どもの健やかな育成や子育て家庭の支援を図る活動といえます。高齢者との交流や異年齢児交流などの世代間交流活動、保護者等への育児・家庭教育講座、郷土文化伝承活動などが代表的です。特に育児講座などは、保育指導の重要な方法、機能といえるでしょう。
    5. 相談・助言型の保育場面
       いわゆる狭義の保育指導といえますが、保育士が行う相談・助言は、専門的な臨床相談機関や行政機関のそれとは異なり、日常保育のさまざまな機会をとらえて行われます。育児講座や子育てサークルなどの活動を通じて実施されることも多くなっています。日常場面における相談、電話による相談、面接による相談など、その形態もさまざまです。相談の基本原理を保持しつつ、関係機関や専門職との連携を密にし、自らの限界を理解した対応を心がけます。




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