- 現在の状況
- 2年経った現在、Aちゃんは体力もつき、歩くことはもちろん、外で駆け回る姿も見られるようになりました。みんなと同じ食事もとれるようになり、着替え、歯磨きなども同じクラスの園児と同様、自分のことは自分でしています。
5歳児クラス担当の先生は、常にAちゃんに気を配りながらもほかの園児と同様、先回りして手を貸したり、特別に何かをしてあげることはあえてせず、Aちゃんが困っているときは、気付いた園児が率先して助けてあげる場面も多々あったといいます。 この日、「今日は月曜日なので……」と、休み明けの登園に、ちょっと心配気味のお母さん。その言葉通り、繊細なAちゃんは4歳児クラスのときから一緒だった矢島先生のそばを離れようとはしませんでしたが、10分もすると自ら友だちの輪の中へ。それからは、いつものペースに戻り、早めに迎えに来たお母さんに、もっとお絵描きをしていたいと鉛筆を離さない場面も。すっかりクラスになじんでいるAちゃんに「入園当時の姿はまったくありません」とは、お母さんと先生方の一致した、うれしさがこもった感想です。
- 障害児保育の周知方法
- 周知は、市や区がホームページや広報などを通して行い、保育園では特別なことはしていません。個々にほかの保護者から質問があったときにそのつど対応するというスタンスをとっているそうです。自然に理解してもらうためには、保護者とのコミュニケーションが大きな鍵といえるでしょう。
- 保育士の話
「Aちゃんのことは、入園前から妹さんの送り迎えでお母さんと一緒に来ていたのでお顔は知っていました。あのころは本当に小さく、また、私自身も障害を持つお子さんの保育は初めてだったので、やはりちょっとプレッシャーはありました。お母さんの付き添いがなくなってから関係作りが始まりました」(3歳児クラスで担当していた松沢明世先生)。「ほかの子が自然に受け入れられるように気は配るけれど、必要以上に特別視をしないよう心掛けています。ふざけているうちにけんかになってしまうのは子どもの世界ではよくあることなので、痛かったら痛い、やめてと言ってね。ごめんなさいしようね。と繰り返すうちに子ども同士もコミュニケーションがうまくなりました」(5歳児クラス担当の矢島真澄先生)。「初めは見守る感じでしたが、だんだん慣れてきてくれました」(5歳児クラス担当の大友真理子先生)。Aちゃんをはじめ園児の成長は、先生方の活力の源にもなっているようです。
- 利用者(お母さん)の声
「ダウン症の子は、まねをするのが得意だと聞いていたので、普通のお子さんと一緒に過ごしながら、伸びていってくれればいい。そんな思いから保育園を希望しましたが、やはり心配でした。私自身も障害児を持つお母さん方とのお付き合いのほうが多かったものですから、娘のことをほかの親御さんに説明したほうがいいのか、それとも自然に認識してもらうのがいいのかなど、母子ともに乗り越えなければならない見えない線のようなものがあったと思います。実際、入園当時はAが新しい環境になかなか慣れなくて、ずっと付き添わなければ駄目なのだろうかと悩みましたが、先生方に助けられ、私の手から離れてくれたときは、やっとここまで成長してくれたと、本当にうれしかったですね。手の届かないところや段差などでAが困っているとき、お友だちが自然に手を差し出してくれるのを見るとすごいなあ、と感動さえします。家でもお友だちの名前を出すようになりました。普通の保育園に入れてよかったと、今は心から思っています」
- 田中恵美子園長先生の話
「世の中の動向とともに保育士が求められる役割も徐々に変化してきたのではないかと思います。保育園にとって、もちろん保育が一番の目的ですが、家庭が不安定になると子どもの態度や発育にも表れてきます。保護者とのコミュニケーションを通して、子どもが置かれている状況や背景をキャッチすることも大切になってきました。園では、今までも障害を持ったお子さんを受け入れてきましたが、Aちゃんの場合、入園当初は特に環境の変化の大きさからか、保育士や子どもたちへの拒否反応が強かったのですが、お母さんの協力を得ながら、無理なく進めることができて、保育園は楽しいところという気持ちができてきたのではないでしょうか。もともと、やる気のあるお子さんなので、今はすっかりクラスに溶け込んでいます。通常、3歳ごろから自分のことができる力が付いていき、お友だちに対しても余裕を持った目で見られるようになります。ほかの園児がAちゃんに自然に手を貸してあげられるのも、『友だちを助ける力だってあるんだぞ』という自信の表れの一つだと思います」
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